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2022年4月1日より中小企業を含めパワーハラスメント防止措置が義務化されました

2019年に改正された労働施策総合推進法(いわゆる「パワーハラスメント防止法」)が2020年6月1日に施行され、職場におけるパワーハラスメントについて事業主に防止措置を講じることが義務づけられました。また、これに併せ、事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱も禁止されました。これは大企業を対象にしたものでしたが、2022年4月1日より中小事業者も対象となっています。

法律顧問業務をしていてよく質問を受けるのが、「ちょっと強めに言った業務指示や指導もパワーハラスメントになるのか?」というものです。

労働施策総合推進法第30条の2には次のように規定されています。

(雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
4 (略)
5 (略)
6 (略)

労働施策総合推進法30条の2からは、パワーハラスメントスメントについて次のように定義できます。

職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの

 したがって、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる業務指示や指導は職場のパワーハラスメントには該当しないと言うことになります。少々強めに注意してもパワーハラスメントになるとは言い難いでしょう。

それでは、具体例で考えてみたいと思います。

上司Xが何度も注意したが、部下Aが繰り返し遅刻していたところ、上司Xが他の従業員がいる前で、「お前、ふざけるな。何回言えば分かるんだ。社会人失格だよ。」、「何度も言わなきゃわからないなんて馬鹿じゃないのか。」、「なんで遅刻したんだ。」、「答えろよ。」、「お前のせいで職場の雰囲気が悪くなるんだよ。」と怒鳴り付けた。

この場合はどうでしょうか。

まず、上司と部下との関係ですから、①優越的な関係を背景とした言動であることは争いないでしょう。問題は、この発言が②業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、③部下Aの就業環境が害されるかどうかです。

何度注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意することは許されます(それすらパワーハラスメントになるのであれば事業は成り立ちません)。

しかし、他の労働者の面前において大声で威圧的な叱責を繰り返すことは精神的な攻撃と捉えられ「必要かつ相当な範囲を超えている」と考えられます。上記のケースでは、業務上必要かつ相当な範囲を超えていると評価される可能性が高いでしょう。

では、他の従業員の前ではなく、別室に呼び出し長時間厳しく叱責した場合はどうでしょうか?この場合、他の従業員の面前でなされたものではありませんが、長時間に亘り厳しく叱責されているわけですから、やはり精神的な攻撃と捉えることができます。したがって、この場合も「必要かつ相当な範囲を超えている」と評価される可能性が高いでしょう。

次に、③労働者の就業環境が害されるかですが、「労働者の就業環境が害される」とは、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業するうえで看過出来ない程度の支障が生じることを言います。そして、その判断基準は、社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうかになります。先ほどの例においては、労働者の就業環境が害される場合に該当すると判断されるでしょう。

そうすると、①②③を満たすので、パワーハラスメントになると言えそうです。

さて、以上がパワーハラスメントに該当するか否かについてですが、法律では「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」とされており、「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」とされています。
そして、職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置については、厚生労働大臣の指針に定めるとされており、事業主は、これらの措置について必ず講じなければならないとされています。

厚生労働大臣の指針として定められているのは次のとおりです。

Ⅰ 事業主の方針の明確か及びその周知・啓発として
① 職場におけるパワーハラスメントの内容・パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知すること
② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
Ⅱ 相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備として
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
Ⅲ 職場におけるパワーハラスメントの事後の迅速かつ適切な対応として
⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること
Ⅳ 併せて講ずべき措置として
⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

パワーハラスメントは重大な社会問題となっています。事業者の視点から言えば、職場のパワーハラスメントを放置することは労働環境の悪化、職場の秩序の崩壊から貴重な人材の流出を招き事業を悪化させることにつながりかねません。

今回検討のために挙げたのは一例にすぎません。当事務所では中小企業の法務相談もお受けできますし、法律顧問の形でサポートすることも出来ます。「パワハラについて相談をしたい」、「講ずべき措置について具体的に知りたい」などございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。